子供に無理なお願いをしたら、「また今度ね」と、たしなめられました。
たちばな しんたろうです。
さて、俳優を目指すものなら一度は聞いたことがあり、自然な演技を引き出すための有名な演技理論。
それが、
スタニスラフスキーシステムです。
今、これを読んだあなた。
すでに噛みましたね?
そんな、むずかしい名前のシステムですが、100年も前に考え出されたのに、今もなお現代の俳優に大きな影響を与え続けるウルトラ演技理論です。
このむずかしいけど大切なスタニスラフスキーシステムを、だれでもわかるようにご紹介したいと思います。
今日のお題。
超簡単スタニスラフスキーシステムとは
では、いきなり答えから。
俳優の脳内に、台本を基にした緻密(ちみつ)なバーチャル世界をつくることで、出したい感情が自然に湧き出て、身体の変化や自律神経までも操ることができるようになるんじゃあないの。それこそが良質でリアルな演技なんじゃあないの。
というもの。
たとえば、ジェットコースターの先頭に乗っている人目線の映像を見ると、乗ってもいないのにドキドキします。レモンをかじる想像をしただけで唾が出てきたりします。
このように、人間の脳は本当に体験しなくても、ドキドキしたり、すっぱさを感じたりすることができます。
これを利用して、俳優が演出家や共演者とともに創り出した台本通りの脳内映像を、スタート!の合図に合わせて再生することができれば、俳優が気持ちを「造る」のではなく、演じる「役」として自然に感情がわきおこり、その「役」があたかもその場に生きているようなリアルな演技が生み出せるのです。それが役に命を吹き込むということなのです。
このスタニスラフスキーシステムとそのテクニックは、舞台ではもちろんですが、映像演技が中心となる現代では、ますます重要になっていくのです。
なぜ今、スタニスラフスキーシステムなのか
演技とは、台本をもとにつくられる「作り物」であり「架空の世界」です。ドキュメンタリーではありません。でも、その作品を観る者にとっては、実際にその場にいて事件やアクションを目撃したり、主人公の気持ちになりきってストーリーを体験することが、ドラマの面白さです。そんなドラマの世界で、出演俳優が演技をつくるときに「ビックリする演技なら、大きく目を見開いて、息を吸い込めば、それらしく見えるよね。」などという、形だけの薄っぺらい演技をしていれば、観てるほうはストーリーに入り込めません。まして、その演技が雑であったり、演出意図や他の共演者とズレていたりすれば「へたっぴ」の烙印を押されてしまうのです。
さらに俳優として難しいのは、たとえばSF映画「スター・ウォーズ」の撮影で、宇宙人と会話をする撮影シーンなどでは、合成するための緑一色のスタジオの中で、実際には「ありもしない宇宙船の中」で、実際には「そこにはいない宇宙人と会話」して、喜怒哀楽を表現しなくてはいけません。それがSFではなかったとしても、実際には好きでもない相手に恋愛感情をもち、ドキドキを感じ、泣き、笑い、感動しなくてはならないのです。そんな場面を自然に、よりリアルに演技できたときこそ、見る者の心をうごかし、感動を呼びます。
そのためには、俳優が脳内に創りあげたバーチャル世界を再生し、俳優自信がプロジェクションマッピングの投影機となって、何もセットが無い舞台上に砂浜を映し出したり、好きでもない共演者の顔に大好きなあの人の顔を投影することで、実際に俳優が物語を体験し、それがリアルで自然な演技を生み出すのです。
スタニスラフスキーシステムを使うときのポイント
では次に、具体的にバーチャル世界をつくるにはどうすれば良いのでしょうか。
ポイントは、いかに緻密(ちみつ)で良質なバーチャル世界を創りあげるかにかかっています。
テレビゲームでたとえるならば、ビット数の単位が多ければ多いほど、キャラクターのギザギザが滑らかになり、よりリアルな表現ができるようになります。ついには、かなり現実に近い映像体験までが可能になっていきます。
リアルなCG効果でいうならば、その物質の質量や素材まで計算されつくして、CG映像を作りあげてこそリアルな作品になりえます。
俳優としては、台本を深く読み込み、役作りをする。読み合わせや稽古を通して、作品の世界観を演出家や共演者と共有する。このような作業が「バーチャル世界」をより緻密で良質なものにしていきます。
ときどき、自分の演技が上手くいかないのを、相手役のせいや、環境のせいにする役者さんをみかけますが、それは自分のバーチャル世界を創ることができていないのではないでしょうか。
良質なバーチャル世界を創りあげる作業=演技プランをたてる。
この作業の楽しさを知ることこそが、俳優という芸術家の本当の楽しさのひとつなのです。
時を超えて、今なお注目され続ける「スタニスラフスキーシステム」
この記事でより深く体得したいと思ったかたは、ぜひ深みにはまってみてください。
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