演技とは創造物です。
「経験していないことに、どのようにリアリティを持たせるか」ということは、演技プランをたてるうえでかなり重要な要素のひとつです。
それはたとえば「宇宙を舞台にしたパイロットの心理」であったり、「犯罪者の心理描写」であったり、自分に実際にはいない「子供への愛情表現」であったりするのです。
かなり特殊な設定での役づくりを必要とされることも多いのですが、そういう「かなり特殊な経験」というのは、取材や体験をするのも難しいことが多いですし、観る側のみなさんも、ほぼ未経験なので「たぶん、こんな感じになりそうですよね。」というものが創り出せればある程度のリアリティを持たせることができるかもしれません。
しかし
そんな演技の世界でも、特にむずかしいのが「自分とは違う年齢」の演じ分けの仕方なのです。
年齢の演じ分けはなぜ難しいのか
「なぜ難しいのか」ということには、いくつか理由があります。
<演じる年齢が上>の場合。
これは俳優が経験することができません。それは、本人とは違う性別を演じたり、人間以外の役を演じるときも同じです。
さらに見る側がその年齢を経験していたり、役と同じ年齢の方が身近にいたりするので、比べる対象が身近にあるということもむずかしさの一つです。
<演じる年齢が下>の場合。
見る側のほとんどの人が実際に通過・体験してきたことなので「歳上の設定」よりも比較対象されやすくなります。
また、身長や体型などについては、「老け役を作るときのメイク」のようにあまり外見を造ることができないので、見た目にはある程度限界があるということ。
このような理由があるがゆえに陥りがちなのが、演じる側が「無理に声色を変えたり」することや、「しぐさを変える」という、
外側先行の役作りになってしまう。というミスです。
実際の少年達本人は声高な声色を作ろうとは思っていませんし、老夫婦の枯れた味わいも本人達が常に意識して出しているわけではありません。
なのに、演じる側が「意識して」高い声などを造ることにより、見る側には「俳優自身が意識して造っていること」が透けて見えて、
「違和感を持たせる」結果
になるのです。
まずは軸となる年齢を決める
では次に、「なるべく違和感なく年齢差を演じるにはどうすればいいのか」を考えたいと思います。
まずは、作品上において「その俳優が年齢の演じ分けをする意図」を正しく把握することが必須です。
それはたとえば、
1>一人の人物が作品の中で年齢と共に変わっていく過程をみせる為なのか。
2>作品の構成上、いろんな年齢や人格を切り替える演じ分けが必要なのか。
3>単純にその台本上の設定年齢に近い役者がいないからなのか。
その役としての各シーンでの、気持ちの変化は「ストーリーの変化」によって変わりますが、「意図や事情」によって見せ方がかわります。
3>については、出来るだけリサーチをして、どれだけ役を深く創るかに尽きますが、これは年齢差の演じ分けにかかわらず、役づくりの基本なのでここでは触れません。
1>と、2>については、その作品の中で演じ分ける「どの年齢を一番魅せるべきか」によって「その魅せたい年齢を軸」として、その他の年齢の造り方を変える必要があります。
本能に訴える役創り
演じ分けの種類と、年齢の軸を見極めたところで、一番大事な「演じ分けの方法」について綴ります。
たとえば、小学生の「若い子馬が跳ね回る」ようなハシャギっぷりや、孫に子守唄を歌う祖母の「自分の心臓の鼓動」にも似たゆったりしたテンポをイメージしてください。
いろんな年齢や心情によって、そこには必ず「体内リズム」の違いがあります。
かなり単純に言えば、若い時ほど体内リズムは早く、年齢を重ねるごとに、ゆったりとしたリズムになっていくのです。
これは生物の本能です。
この「本能」から湧き出てくるものこそ、声色を変えるよりもずっと説得力を持つものに他なりません。
つまり「年齢の演じ分け」とは「体内リズムの演じ分け」なのです。
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