俳優や歌手、ミュージシャンというアーティストが他の芸術家と大きく違う点は、「自分以外の世界観を、自分の体を使って表現する」というところです。もちろん、自作の台本や、自作の曲を表現する場合は別ですが、ほとんどの場合は違います。
とくに、俳優という芸術は、他人が描いた台本の中で、自分とは違う性格の人間として、演出家(ディレクター)が脳内に思い描く世界を表現しなくてはなりません。
さらに、音楽や歌には流行があるように、俳優として求められる「演技」にも、その時代に求められる流行というものがあるので、それに対応しなければならないという、かなり特殊な芸術です。
そんな、難しくも楽しい「俳優」というアーティストを目指すあなたに向けて、今回はお客様や演出家(ディレクター)からの、流行に沿った演技への要求に応えるために、古い演技と新しい演技の違いについて綴ってみます。
なぜ流行が生まれるのか
<1>時代背景を映す鏡であること
ドラマも歌も、観ている方や聴いている方は、その作品に感情移入するため、作る側にとっては、描く時代背景を映すことが宿命となります。
たとえば、テレビドラマの再放送を見て、小道具の携帯電話やヘアスタイルを見たときに、「なんか古いなぁ」と思ったことはありませんか。
そして、常に時代が移り変わり、その時代を反映する必要があるのは、セットや小道具や服装だけではありません。
たとえば、出演俳優の身のこなしや、話し言葉に「今どきそんなしゃべり方をするのはおかしい・・・」と感じたことはありませんか。
これは単純に、しゃべり方や話し言葉の変化だけではなく、以前とは違う環境の変化、それぞれの世代の価値観の違いなどに影響を受けてその時代とともに変わってきているものなのです。
そこまでを含めて、「今どき」を、鏡となって表現することこそ、俳優が求められる演技の一つなのです。
<2>AV機器の進化や配信方法、観る側のライフスタイルの変化
エンターテインメントの発信方法は、インターネットの普及や、観る側のAV機器の進化により、「大きく」かつ「目まぐるしく」変わっています。
さらに、ニーズの多様化・細分化に応えるために、多種多様な作品作りがされています。
たとえば、「テレビドラマを見る」という場合でも、「カウチ族」に代表されるように、家のリビングで、家族みんなで、ゆっくりと見ることが主流の時代には、テレビの画面サイズがどんどん大きくなり、ブラウン管から液晶に進化したことにより、さらに大画面化が進みました。
そこで、大きな空間を埋めるために、脇役やエキストラを多く出演させる傾向が出てきて、作品の長さも2時間単位の番組が効果的でした。
俳優としては、ウエストや全身まで映る中で、幅広い世代に応える演技で、二時間後のラストまでつなげる演技プランが必要でした。
ところが近年は、スマートフォンやタブレットの普及により、家にはテレビがなかったり、観たい映像は、時間にとらわれず個人のスマートフォンで視聴するというライフスタイルに移行しつつあります。
その視聴用のスマートフォンも、高画質化・大容量化が進んでいるので、「小さいが高画質な画面で、ある程度の時間を飽きられることなく観てもらえるように、ひとつづつのカットが長い作品」作りが増える傾向です。
そこで、俳優としては、アップを多用する映像の中で、作品の視聴者層に合わせた、視聴者の興味を引き続けていく演技が必要になります。
そのような背景が、流行の生まれる2大要素であり、俳優としては、演じる役の人格形成はもちろんのこと、その作品ごとの世界観や、時代背景、媒体(放送が予想される機器)、演出の仕方などによって演技を変えていく必要があるのです。
演技の種類
現在の演技とは
新しい演技のお話の前に、まずは現在の演技とはどんなものか。について綴ります。
今のドラマ(特に国内)を見ると、俳優の演技には大きく分けて三つのタイプがあります。
- とびぬけた面白いキャラクターを作り、あらゆるシーンで、「そのキャラクター」としてリアクションする演技。(コメディー作品に多い)
- 自分(演じる役者そのもの)以外の影響を受けないスターの演技。(「何を演じても〇〇さん」と言われるタイプ)
- 創り上げた役の人格から湧いてくる感情にフィルター(または、増幅)をかけずにストレートに表現するナチュラルな演技。(いわゆるドキュメントタッチ)
もちろん、この三つを使い分けたり、ミックスしたりしているわけですが、前項目でのお話をふまえ、最新流行の演技を定義するならば、「アップを多用する映像の中で、視聴者の興味を引き続けていく演技」ということになります。
そこで、アップを多用した高画質画面が前提なので、おおげさな身振り手振りをつけることはしずらくなりました。さらに「長回し」といわれる、カメラを止めずに感情の移り変わりを見せて、視聴者の興味をひきつづけていく演出が増えていることで、一つ目の、強烈なキャラクターを演じ続ける演技は主流とは言えなくなっています。
二つ目のスター演技については、ファンに向けた作品であるならば、一つのジャンルとしてありです。しかし、作品としての評価につなげるには、主役を支える脇役も重用しなくてはならないため、ニーズと、作品としての完成度とのバランスがむずかしいのが現実です。
そして、三つ目のドキュメントタッチのナチュラルな演技についてですが、これが実は、最新流行の演技に一番近いものです。
ただし、最新流行の演技には、このナチュラルな演技にプラスの要素が加味されています。
それは、
「ナチュラル」であり「リアル」であること。
では、次の項では「ナチュラル」と「リアル」の違いとは何かを綴ります。
新しい演技作りの基礎
「ナチュラル」と「リアル」の演技の違い
ここで演技の基礎にもどり、演技をしている時の精神構造をみてみましょう。
この図のように<P>という、役の人格領域で湧きおこった感情を、<F>というフィルターを通して生みだされるものが「演技」です。
感情の発生源や感情自体は、変わらないのですが、<F>の領域での、フィルターのかけかたで、「ナチュラル」と「リアル」の違いを出します。
「ナチュラル」というのは、<P>で湧きおこった、シンプルに表現したい感情のみを、一気に演技の領域まで押し出してきます。この表現方法の良さは、わかりやすく、かつシンプルに「役」の気持ちが伝わってくるところです。
しかし、人間(とくに大人)というのは現実の生活では、シンプルにうれしい気持ちや、悲しい気持ちのみを表に現すことはなく、いろんな考えをもって感情を抑えたりするのが現実です。
つまり、「リアル」というのは、<P>で湧きおこった、表現したい感情以外の、複雑で繊細な、本題以外の感情をも含めて演技の領域まで押し出して演じるのです。
そんな、「リアル」な演技法で演じることで、その表情は「複雑」かつ「繊細」で、ともすれば、何を考えているのかわかりにくい表現ともいえるでしょう。
しかし、一見何を考えているのかわからず、しかも微妙に感情が揺れ動いていることが感じ取れた時こそが、観ているみなさんにとって「リアル(現実感)」を感じ取れる瞬間なのです。
たとえば「泣きたい」という感情が湧いてきたときは、周りの目を気にして、泣くのを我慢して平然を装いますね。
でも、そばにいる人が、家族や気をゆるした人であるならば違う状況になるはずです。
そのような演技こそが、高画質なアップの映像に対応し、今この場で起こっている現実ともいえる「ドラマ」に引き込んでいく最新の演技法なのです。
今回のテーマをまとめますね。
最新の演技とは、「ナチュラル」かつ「リアル」な演技をもって、複雑で繊細なる人生の疑似体験をしていただける演技
なのです。
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